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アメリカ在住大学生が映画を語るブログ

ハンガリー映画「サウルの息子」あらすじ感想:ホロコーストの内情を斬新な糸口から描く

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Laokoon Filmgroup
大勢の人間が、ロボットのように整列し、閉ざされたドアの向こうへ運び込まれる。
 
そこには老若男女問わず、様々な人間が列を成し、死んだ目でこちらを見つめる。
 
泣き叫ぶ声や悲鳴があたりから聞こえようと平然と仕事をこなし、大量に置かれた死体の山を黙々と処理する。
 

はじめに

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主人公(左)とドイツ兵(右)
“ゾンダーコマンド"は第二次世界大戦時に、強制的に働かされていた囚人のことを指す。
収容所で使われたドイツ語で、"秘密の運搬人(ゲハイムストレーガー)”ともいう。
 
反ユダヤ主義のもと、ユダヤ人の大量虐殺が行われ、推定1000万人以上が亡くなった。
 
そんな人類史最大の大虐殺を題材に、収容所で働かされるあるひとりの男の1日半が描かれる。
 
ゾンダーコマンドとして毒殺されたユダヤ人の後処理や、ドイツ軍の命令に従い厳しい重労働を強要される。
 
 では「サウルの息子(Saul fia)」について話そう。
 

サウルと息子のキズナ

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ある日ユダヤ人の列に自分の息子らしき子を見つける。
 
小さな子供さえも無残に惨殺し、その遺体を見つめる主人公サウル。
 
せめて自らの手で葬式をしたいサウルは、息子の遺体を運び出し、お墓を掘ろうとする。
 
人間がアリのように、ものともせず惨殺され、ひとり、またひとりと倒れていく。
 
着ていた服は全て脱がされ、全裸の状態で無残に殺される。
こんな混沌とした世界では、人権もクソもない。
あるのは人がいとも簡単に殺される状況のみ。
 
同じユダヤ人でもゾンダーコマンドに任命された人は、他の囚人と切り離され、数ヶ月間に渡り、重労働を強制される。
 
その後殺される。
不規則に大量に散らばった死体の山を同民族ユダヤ人が後処理を任される。
 
日本でいうと、いままで一緒の飯を食べていた友達や家族が死んだ後、そのあと処理を1日中しなくてはならない。
そんな現実がついこの前まで世界のどこかに存在していたという恐怖。
 

ホロコーストについて考えよう。

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これまでホロコーストについて描いた作品は多く制作されていたが、世界中が本作を絶賛した。
 
本作で監督を務めたネメシュ・ラースロー監督はハンガリー出身の若き才能として、本作をきっかけに高く評価された。
 
これが長編第1作目にして、カンヌ映画祭でグランプリを受賞、そしてハンガリー代表としては28年ぶりに、アカデミー外国語賞の受賞を果たした
 
これまでにない切り口でホロコーストというものに立ち向かい、その卑劣さと残虐さを描こうとした。
 
ユダヤ人虐殺という信じられた光景を前に、それでも亡くなった息子を安全に埋葬したと思う父親の願い。
 
常に鳴り響く叫び声と鳴き声は、聴覚からより現実味を表現し、1.375:1の縦型の映画の枠組みは異様な雰囲気に包まれた当時の状況を連想させる。
 
映像にぼかしがかかり、鮮明には映さない画質は、主人公サウルの視界が狭いことと、先の見えない将来を表現し、そんな絶望的な状況を見なれない1.375:1の画角が助長する。
 
 

 固唾を飲む冒頭7分

はじめの冒頭7分は異形を極めている。
 
視覚的に信じられない事実を淡々と描き、常に聞こえてくる銃声や泣き声は、そんな当時の悲惨な状況を多面的に訴えてくる。
 
この映画の全てが人間社会で行われていることとは180度違うし、作られたファンタジー映画でもこんなに凝っていない。
 
でも本作で描かれていることは全て本当にあったことであり、作り話なんかでもない。こんなに異常で、イカれた映画は他にないし、空いた口が塞がらない。
 
どうこの映画を言葉にしようか悩んだ。言葉では作品の良さなど伝わらないとよく言われるへど、本作ほどそれを実感したこととない。
 
だんだん虚しくなっていく。
 
これほど聞こえてくる銃声に怖気付いたことはないし、これほど2度と見たくないと思ったこともない。
 
アメリカ映画でよくあるようなムキムキ男の銃の乱射シーンや、感動を誘う戦争映画がゴミに思えてくるほど強烈なインパクトを本作は遺した。
 
ホロコーストとは別に、戦争の悲惨を描く映画は他にもいっぱい存在するが、本作ほど観客の見る方の意識を無視した映画はないし、思考を停止してしまう映画も多分ない。
 
ヨーロッパの小国が生んだ若き才能が現在の行き過ぎた大作主義を打ち砕く日も遠くない。
びぇ!
 
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